不良の弟

「詩織ちゃん、おはよう」


にこっと白い歯を少しだけ見せるようにしながら笑う昴くん。
右腕につけた気に入ってる白い時計を見ると11時ぴったし。
さすが昴くんだ。


「おはよう。ぴったり、だね。時間」


朝からさわやかな昴くんにつられて笑顔になったけど、爽やかな笑顔の裏に掠めるのは昨日の寒気と冷たい声。


同じ人とはとても思えない違いだった。



「じゃ、いこっか」


「うん」


と目を細めて笑って小さめのボストンバッグを手にする。
これも気に入ってるのだし、服も好きなブランドの。
今日のあたしのファッションはかなり好きなものづくしだ。


玄関のかぎを閉めて昴くんの方を見ると、‘手、繋ご？’とあたしに低い声で言ったのが分かった。


ドキドキしながら、ちょっとだけ昴くんの方に右手をのばすとさっと素早い動きであたしと恋人繋ぎをしたから焦った。
心臓の音が聞こえないかとか、普通の女の子はそんな事思うんだろうけど、あたしは全然思わなかった。

繋いだ時に思いだしたのは、零の笑顔。
そしてその後はまた昨日の昴くんの寒気と冷たい声だった。

今日、夕方近くまで一緒なのにこんなのばっか続くのかな？


持たないかもしれない。



デートは始まったばかりだというのに、すでにあたしは弱気だった。