不良の弟
「映画、見たいのあるんだけどいい?」
今、若い子に人気の青春ものの映画を指さしながら昴くんはこっちを見た。
その笑顔は冷たいの何か感じさせない爽やかな笑顔そのものだった。
「うん。あたしも見たかったんだ」
「良かった。じゃ、チケット買ってくるね?」
恋人繋ぎだった手をぱっと放して、昴くんは小走りでチケット売り場の方に行ってしまった。
その背中を見た時に思い出したのは。
幼い日の…記憶。
がん、と頭を殴られたように痛くなっていくのが分かった。
立っているのが辛くて、近くにあったベンチに腰掛ける。
「…っぃたっ…」
こめかみを押さえるようにすると痛みで痛みが紛れた。
最近は、思い出さなかったのに。
今日見たあの夢の所為だ。
少しでも、気を緩めると大声で泣き叫んでしまいそう。
誰の目を気にせず、子供みたいに。
大人なつもりだけれど、あたしはまだまだ子供。
ときどき、思い出しては1人泣いてる。
泣きたいのはあたしだけじゃなくて零もなのに。
ピロリ
ケータイが鳴った。
昴くんの曲とは違うタイプの大好きな歌。
彼女がいる男の子に恋をしちゃう悲しい歌だけど、そんな事にもへこたれないとでも言うように明るく歌うこの歌が大好き。
これは…零の音。