不器用なLOVER
「透弥さんは子供の頃から何でも出来たの?」

私の疑問に少し顔を赤らめて、

「そんなわけないでしょ。最初は何でも失敗ばかりで…だけど周りからの注目も期待にも応えなきゃいけなかったから」

宮原物産のご子息っていうことで否応なしに注目され、その背中の重圧に耐えてた。

「出来て当然で出来なければ…、宮原が恥をかくことになる。
人に努力してる姿を見せることも気恥ずかしくて、
朋弥に追い越されることに脅えてたんだ」

自嘲気味に笑った。

「自分の気持ちに真正直な朋弥は僕の憧れだった」

【凄ぇって尊敬さえしてた】

重なる。
多分が確証へと変わる。

睫毛を伏せ影を落とす透弥さんに

かける言葉が見付からない。

沈黙を破るチャイムに、

「早いな…間に合うかな?」

手が再始動する。

私も手を動かしてると、

ノックと同時に実行委員の一人が顔を覗かせた。

「あれ?里中じゃん。密会中なら鍵かけなきゃダメだよ?」

軽口に表情一つ変えずに、

「これ投函してくれる」

立ち上がり終えたばかりの願書の封書を手渡す。

その宛名書きを怪訝に見つめてる彼に思い当たり近付いた。

「あっ、私が、書いたから字が、汚いかも…」

躊躇いがちに呟くと、

「なるほどね。会長の字じゃないとは思ったけどね。女の子らしい可愛い字で俺は好きだよ」

笑いかけられて、
字が好きだって言われてるのに、恥ずかしくてうつ向いてしまう。

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