不器用なLOVER
望まぬ方向へと事態は進んで行くと思っていた。

興奮状態の朋弥さんと鉄ちゃんが話すことになれば志穂さんの過去を蒸し返すことになるかもしれずそうなれば透弥さんへの気持ちをまた疑うことに為りかねない。

とにかく私はそう為らないことを祈ることしか出来なかった。

「あの…透弥様…お相手の方は?何を話せば宜しいのでしょう?」

鉄ちゃんの戸惑いの声が聞こえ、それに答えるのは志穂さんだ。

「相手は…朋弥さん。
透弥さんの側近だよ…。
私を透弥さんから遠去けたがっている人…」

志穂さんの声がか細くてまるで…震えている様だった。

怖いのだと思う。

透弥さんの為だったとしても…。朋弥さんの行為は行き過ぎてる。志穂さんから過去の思いや後悔を聞いた後では尚更だった。

「簡単に説明しますが、
朋弥は今も志穂さんが僕に近付くことに猛反発していますから…。鉄宏さんに言って欲しいことは…たった一言だけ志穂さんへの心意だけです!
嘘や遠慮…増しては僕への気遣い等は一切必要有りません!
志穂さんと望む今後の関係性だけそれだけ言って頂ければ…朋弥も納得する筈ですので」

しばしの沈黙の後、

「私は透弥様の御依頼でこちらに伺ったメイキャップ担当者です。
志穂とはチームを組んでいますが私情を仕事に持ち込んだことは、今まで一度も有りません!」

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