不器用なLOVER
首を横に振った。

「ヤっ、じゃない」

言葉が詰まって巧く言えない。

透弥さんの目が一瞬大きく見開かれて、細まる。

「嫌がっても、言わないけど離さない」

起こした体に抱き締められる。

その腕の中が一番安らげる場所。
ここに居れば私を守ってくれる。

胸に顔を埋め、背中に手を回す。

抱き締める腕に力が加わる。

強くて優しくて全てを持ってる。
足りないものなんてないのかも。

けど…

強く抱き締め返す。

透弥さんの心は私が守る。

「本当は、理事長の弱味を見付けたくて晶に近付いたんだ」

「えっ」

腕の力が弱まり、
見上げると、視線を外された。

どういう意味?
辰おじさんの弱味?
それを見付けるために近付いた?

「嘘…」

そんなことしか出てこない。
信じられない。
信じたくない。

透弥さんのシャツを握り締める。

「別に条件自体難しいことはないけど、フェアじゃない気がして」

確に辰おじさんは透弥さんの置かれてる状況も透弥さんの悩みも知らずに酷く理不尽な条件を出している。
私が透弥さんの立場でも、自分にばっか不幸が舞い降りてきてるようで…。
私ならただいじけてるだけかも。
透弥さんじゃなくても理事長の弱味を握りたくなる。

透弥さんの胸に顔を戻す。

「ごめんなさい。何にも役に立てなくて…」

私の髪にキスを落とす。

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