不器用なLOVER
誰かを守るために自分を犠牲にして理事長と取引して、今度は私を助けるために取引したの?

透弥さんの次の言葉を息を詰めて待つ。

「アフリカに学校作るんだって」

予期せぬことに思考回路が止まる

「向こうに行ったら講師するって張り切ってた」

辰おじさんは確に教員免許を持ってるって言ってた。
英語も堪能だから分からなくもない?

だけどそしたらこの学園は?

「教育者として立派だと思う」

それは確に思うけど…。

でもこんなブルジョア生徒たちの保護者が理事長不在に納得するとは思えない。

「だから、この学園の理事長代理を決めた」

「理事長代理」

思わず体を引き離して見上げた。

思いの外優しく微笑む目と合い、私は言葉を呑み込む。

「代理っていっても、やることはそんなに今までと変わらないから」

私は透弥さんに負担を掛けるだけの存在なんだろうか?

こんな私がホントに一緒に居てもいいのだろうか?

何一つ取り柄が無くて、
何も持って無い。

不安が一気に襲いかかる。
軽い目眩がした。

足元から崩れ落ちるようにしゃがみ込む。

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