不器用なLOVER
近付く足音が戸口の前で止まる前に朋弥さんは立ち上がり、

間に合うはずのない私達はまだ床に伏せたまま、

「何の騒ぎですか?」

開け放たれたままのドアから覗く副会長を見上げた。

ゆっくり体を起こす透弥さんに支えられて私も立ち上がる。

いつもの無表情の仮面を張り付けた透弥さんは、人指し指で眼鏡を持ち上げる。

「何?」

変わり身の速さに副会長も何も返せずに軽く咳払いをすると、

「部外者は立入禁止のはずです」

朋弥さんを見て言った。

悪びれる様子もなく私の腰に手を回すと、

「だって行こ晶ちゃん」

歩き出そうとした。

「えっ」

「俺ん家で続きしようね」

屈んで顔を覗き込んできた朋弥さんの手首を捻り上げて、

「懲りないな。晶に構うな」

私の腰から離させられ、空いた手で引き寄せられる。

「晶はこっち」

透弥さんの腕に捕えられた。

「じゃあまたね晶ちゃん」

片手を挙げて去って行った。

結局何者だったんだろ?

透弥さんとは結構長い付き合いみたいだったけど。

透弥さんを見上げるけど、副会長との話し合いに夢中で蚊帳の外。

こんな時でもデスクの端に腰掛け膝の間に立つ私の腰に手を回したまま包み込むように離さないで居てくれることが嬉しかった。

< 86 / 315 >

この作品をシェア

pagetop