関羽
漢の光和7年(西暦184年)、とある県令の邸宅でそれは起きた。
「関羽ー!塩商人の関羽はおるかー!」
絹の美しい藍色の服に身を包んだ小太りの男が、廊下をどかどかと歩きながら叫んでいる。県令である。明らかに虫の居所が悪かった。
「は。ここに。」
直ぐに、麻の着物に身を包み、長い髭をたくわえた大柄の男が駆け付けた。
着物は薄汚い茶色で、被り物をして一応の身なりは整えてあるが、とても商人には見えなかった。
しかし、肉体は逞しく、顔も引き締まり、目には活力がみなぎっていた。
「県令様。いかがなされました。随分お怒りの様ですが。」
「様ではなく実際に怒っておるのだ。貴様、聞けば巷で塩をわしが取り決めた金額の半分以下で民に売ったそうだな!」
「はい。それは事実でございます。」
「はい。ではない!何故その様な事をした!」
「民が貧窮するからです。塩は民にとって無くてはならぬ物。しかし、県令様の決めた値段では高すぎます。これでは民は生きて行けません。」