イナフ ー失われた物語ー 【小説】
溺れていく自分を
どうかそのまま
何も言わずに
見放して
誰にも救われたくなどない
誰にも救えはしない
永遠にひとり
ひとり
ひとり
一瞬だけ
なにもかも忘れることを
少しだけ許して
99.9%の苦痛の中の
0.1%の忘却を
どうか
私に
私に…
私はその日彼の診察室で
薬もなく正気のまま
彼の愛撫に狂った
彼は逃げない私を見て言った
もうこれなしでは
生きていけないよ
こんなに狂って
恥ずかしくないのかな…
奴隷だね…こんなに仕込まれて
逃げも拒みもしないで
ほら…またイクのか
こんなにどうしようもない奴隷は
初めてだよ
…そこに触りもしないのに
ひどいもんだ
こんなに漏らして…
普段の無口な彼からは
まったく想像も出来ないような
嗜虐の言葉の囁きに
私は更に狂わされた
責め殺されたい
もっと喉の奥まで犯して
息を止めて
そのまま狂いながら逝きたい
彼の奴隷になる月日の
始まりの日
正気で生きることの限界を
静かに越えて行くのを
崩れおちる意識の遠くに
幻のように感じていた