イナフ ー失われた物語ー 【小説】
性感が一気に身体を支配してきた
震える身体
…押さえても止まらない
左右の銀色の輪が交互に口蓋を犯す
そのたびにぴくんと背中が反り返る
舌に固いリングがまとわりつく
微かな正気が快感の中で磨滅する
堪らず口に指を突っ込む
唾液で滑るリングは指をすり抜ける
取って…誰か…これを…
異物に引きつれた舌が痺れて疼く
駄目…
駄目だ…
身体に刻まれているんだ
なにもないのに
自分すらいないのに
感じるんだ…
感覚
かんじている
ああ
なにもないのに
感覚だけある
感じないことは出来ない
感じないふりしか
できない…
からだ を
かんじて いる
それはいままでのかんかくと
ちがうかのように
わたしのむねにせまってきた
かんじたことだけ
かんじたことだけ
しかない
かんじることだけが
ある
わたしに
残されている
それは
不思議に苦しみではなかった
純粋に感覚が
身体を駆け抜けていった
快楽の頂点に達したかのように
なぜならば
エクスタシーに突入したまま
快感がなんの歯止めもなく
高く高く吹き上げられて
まるで光のようで