イナフ ー失われた物語ー 【小説】



もし死が永遠の眠りならば

私は永遠の安らぎを得るのだ

私がなくなるなら苦しみも消え去る



しかし

と私はもう一つの可能性を思った

私という意識が死に奪われなければ

私は永遠に生きる

肉体がなくても意識が生きる

それを人は魂と言ったのだろうか

私は死の恐怖がどこからくるか

少し理解した

死は《未知》なのだ

宗教や神話を信じなければ

死は謎に包まれた暗闇だ

科学は死のあと自意識がどうなるか

語らない

それが多分すべての恐怖を

産みだしているような気さえする

死がわからないから

死は怖い

だが静かに考えてみれば

生きる苦しみを恐れるなら

意識の死は苦しんだ者には優しい

もし消え去る恐怖があっても

消え去ったあとは苦しみも消え去る

もし意識が仮に残ったら…

意識が消え去る恐れはなくなる

そうしたら生き続ける苦しみは

死のあとも続くのだろうか?







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