イナフ ー失われた物語ー 【小説】
するべきことを最後に
病室に夕陽が差していた
青年医師が回診にやってくると
ナースが伝えにきた
あれ以来彼はやはり私には
いつもの快活さのない
沈痛な表情でむかいあっていた
医師の責任と病院の責任
そして医師としての良心
その上に医療の敗北…
すべての交点に私がいるのだ
篤実な彼はこのトラブルの中で
医師としての挫折と悪夢を味わって
打ちのめされていることだろう
彼はもう私の目を見ない
ナースがベッドを立て
私は上半身を起こして
彼を待っていた
しばらくしてやってきた彼は
私のベッドサイドの
パイプ椅子に腰掛けた
その姿は
法廷に立たされた被告人のように
自責と諦めの中で
微かにうつむいていた