恋人は専属執事様Ⅰ
紅茶の香りを楽しんで少しだけリラックスした私に
「鷹護さんと河野さんの件じゃなさそうだよな…宝井さんに何かされた?」
秋津君の言葉がサクッと核心を突いて、私はカップを落としそうになった。
「何で嫌な予感が当たるかな、松本は…」
てゆうか、前振りから言い当てるなんて何者!?
「鷹護さんと河野さんの件は火曜の放課後の時点で解決した雰囲気だったから。残るは宝井さんって考えるのが妥当だろ?何かされたってのは俺の勘だったのに、何で当たるかな…この間抜け!」
バカじゃなくて間抜けって言われた…
てゆうか…鷹護さんと河野さんの件って有名なの?バレバレ?
午後の始業を知らせるチャイムが鳴る。
なんて説明しようか悩んでいると
「失礼します」
と言う声と共に入って来たのは…宝井さん!
タイミングが良いのか悪いのか…
秋津君が鋭い視線を宝井さんに投げる。
片側だけ口角を上げて笑う宝井さんが、難なく視線を受け止める。
「怖いね、秋津は…」
思ってもいないことを口にする宝井さんに、秋津君の声が苛立たし気に飛ぶ。
「松本に何したんスか?宝井さん」
秋津君の質問が直球すぎて、顔を真っ赤にして私は俯く。
「ナニをシたか気になる?」
揶揄う口調の宝井さんの言葉に、秋津君がキレる音が聞こえた…気がした。
「松本を困らせんじゃねぇ!」
怒声と共にゴッと鈍い音がして見上げると、秋津君が宝井さんの顔を殴りつけた後だった。
口の端から流れる血をカフスで拭った宝井さんは、真顔でジッと秋津君の目を黙って見据える。
それから、私の横に座って私の目を見つめた。
視線を逸らせないけど、見つめ合うのも恥ずかしく、私の瞳が困惑で揺れる。
「淑乃にはまだ早かったな…お子ちゃまだから」
ニヤリと笑って私に素早く触れるだけのキスをした宝井さんに、私も秋津君も驚きで声が出ない。
「今度はキスの途中で意識飛ばすなよ?」
と私に軽くデコピンをして、宝井さんは冷凍庫から氷を出して氷嚢を作ると顔を冷やし始めた。
「普通ここは出て行くもんじゃないスか?」
不機嫌さを隠さずに言う秋津君に、宝井さんが
「何で?」
とアッサリ質問返しをした。
「いや、恥ずかしくないスか?ヤッた振りとかして」
常に直球のみの秋津君の発言に、宝井さんがニッコリと上品に微笑む。
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