君にキス。
季節は梅雨、いつ雨が降ってもおかしくない状況だが、朝は晴れていたという理由で傘を持ってきてはいなかった。
生徒玄関に着き、自分の下駄箱の扉を開ける。
何年も使われているためか、少し錆びかけた下駄箱の扉は、軽い力では開かない。
開けるたびに、ガンやら、バンやら、毎日毎日違った音を出す。
ちなみに今回はバゴッ、だ。
今まで聞いた中で一番ひどい音かもしれない。
下駄箱に閉じ込められていた靴を足元に落とす。ボン、とゴムが落ちるような音。
かかとを踏んで、不格好になってしまっている靴。
不格好な形は、ぺしゃんこなかかとを上げても今更直るはずもない。
型付いてしまったスリッパみたいな靴のトンネルに足を滑り込ませ、生徒玄関から出ようと試みるが。
「……傘、ねえし」
いつ雨が降ってもおかしくない状況、案の定、外は雨が降り出していた。
置き傘も持っていない。
──…仕方ねえか。
意を決して、再び下駄箱まで戻り目を泳がせる。
仕方ない、仕方ないんだ。
自分で頷きながら、借りパクをするために傘置き場を探る。
一本だけ置いてあった、真っ黒のこうもり傘。
名前は相川、と書いてあるがお構いなしで掻払っていく。
大雨は厄介、いくら傘を差しているといっても制服は濡れてしまう。
急いで帰りたい、そう思って濡れた道を急いで歩き、校門を通り過ぎようとした。
その時だった。