君にキス。
1.雨の日のこと。
──ガコッ
自販機の口から鈍い音がして、落ちてきたのはコーヒー。
「あれー、陸、いつからコーヒー飲めるようになった?」
コーヒーを取ろうと腰を屈め、しかしそいつの声で動きを一瞬止めた。
表情を何一つ変えず、首だけそいつに向けたまま、
「……お前だれ」
と聞いてみる。
「えっ、忘れた?」
そいつの口から漏れたマヌケな声に、内心笑いが止まらない。
名前くらい知ってる、だけど反応が面白いからこのまま見といてやる。
「……で、だれだっけ」
「ちょっ…それ真面目に?」
「俺はいつでも真面目だ」
「……深だって! 佐藤深!」
必死に自分を指差す深が面白くて仕方ない。
ふっ、と口を軽くつり上げて笑って見せる。
名前くらい知ってるって。