君にキス。






まだ腹がジンジンと痛む中、ケータイにイヤホンを差し込み、耳に着けようとしたとき、






「…雨かぁ」


と、何処か悲しげで小さいか細い声が、耳に届いた。
生徒玄関をふと覗くと、

「…あ、」


“あの”子。
外を眺めていた彼女は、俺の声に気付いたのか、ゆっくり振り返る。


パチッと目が合った。






「また会いましたね」


彼女はそっと微笑んで、しかし再び外に目を向けるとまた悲しげな表情になる。




雨の降る曇天の空を見上げる彼女の横顔が、透き通るように綺麗で、ついじっと見つめてしまった。
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