君にキス。






そんな彼女はちゃんと靴を履いて、カバンも持っているのに、まったく帰る様子を見せなかった。
そう、雨の日の必需品の傘を持っていないのだ。





「…帰らない、んですか?」


異様に緊張する中で、そっと訊いてみる。
どうして緊張しているのか、わからない。








「…傘、持ってないんです」




えへへ、と少女が微笑む。
少しだけ頬を染めながら。

その仕草に、また俺は無意識に傘を差し出していた。






──…相川のだけど。





「そんなっ、でも相川さんが困ります、2日も……」


遠慮がちに顔の前で手を振って、大丈夫です、と言いながら。








遠慮がちな彼女に、ただ傘を持たせたくて。
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