君にキス。
生徒玄関での自己紹介、雨の音がする。
「遅すぎましたね」
「…そうですね」
夏川菜帆。
その名前は、可愛らしい彼女にぴったりだと思った。
忘れることのない、頭に焼き付いて離れないと思う。
明日深になんて言われるか、そんなことを少しだけ不安に思いながらも、
「…傘、使っていいよ」
彼女に傘を差し出す。
また雨の中走って帰ろう、そう思って生徒玄関から出ようとする。
しかし、
「…国崎さん、」
高く、透き通る声に足が止まる。
彼女は、俺が渡した借りパクの傘を俺に差し出した。
そして、
「二人で、…というのは、ダメでしょうか」
ドキンと、聞いたことがない音が、胸に響いた。