君にキス。








ゴゴゴ…と重い鉄製の扉は派手に低く音を立て、開いた扉の隙間から外の陽が中に差し込む。

体育館独特のツルツルとした床、それに反射する陽に目を細めた。




まだ体育館に響くフルートの音。
それは自由に音域をコントロールし、低い音から高い音まで自由自在に出している。








なんだろう、そう思って体育館に足を踏み入れ、再びゴゴゴ…と扉は音を立てる。
そして扉を完璧に閉めたとき、美しいフルートの音色がピタッと止まった。








しまった。
邪魔してしまったか? と扉の前で立ち止まり暫し固まる。


キョロキョロすると、ちょうど目に入ったステージの赤いカーテンが不意に波打った。








そしてそこから顔を出す生徒。


「……あ、」

「こんにちは」






栗色のロングヘアーはふわりと揺らぎ、その髪に埋もれて見えるのは小さな顔。
ピンクに染まる頬。
小柄で華奢な体型。
細い手に持つのは銀のフルート。









それは


「……夏川…」





夏川菜帆、本人だ。
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