君にキス。






ふと名前を呼ぶと、ふわっと彼女は笑う。
少しだけ嬉しそうに見えたのは、俺の目の異常だろうか。気のせいだろうか。





「…練習中、だった?」

「そんなとこです」




えへへ、と照れながら笑う。
そんな夏川を見つめてしまっている自分がいて、少し困る。


このまま引き込まれてしまいそうで怖い。






「国崎さんはどうなさったんですか?」

「……いや、音がして気になった、ってゆーか」






クスリと笑う夏川はとても愛らしく見えた。
自然と顔が火照る自分がいる。


何故だかわからないけれど、……なんか、わからないけれど。






「吹奏楽部、なん、ですか?」

「はい、フルートやってます」


そんなことどうでもよかったけれど、自分がわからなくなってそんなことを訊いていた。






フルートくらいわかるけれど。
つーか何故俺は敬語なんだ。


ああダメだ、調子狂う。
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