君にキス。
何故焦っているんだ、とか何故敬語なんだ、とか何故顔が熱いんだ、とか。
俺にとっては初めてばかりであってわからない。
どういうことなのかわからない。
何を思い、何を感じ、何を考えているのか。
深ならすぐにわかるだろう。
この気持ちはこういうことなんだと言うことを。
それは俺には到底まだ理解出来なくて、ただ頭に響くドクンドクンと波打つ鼓動を、静かに聴くことしか出来なかった。
あまりにガキ過ぎる俺は、いつになったら気付くのだろうか。
「…あのさ夏川、」
もうすぐ夏休みに入るっぽい学校の体育館。
夏川は小さく息を吸って、長い栗色の髪を揺らしながら、手にしている銀のフルートに命を吹き込むように弾き始める。
やがて芽生えた生命は歌うように音を自由に出し、リズムに乗って軽やかに。
そんなフルートの美しい音色に、うっとりと聞き惚れてしまっていた。
蒸し暑い日差しが差し込む中、俺は静かに耳を澄ます。
流れてくるのは美しい音色。
暫しその音に耳を傾けていた。