君にキス。






「ねえ国崎くん、」

「ん?」



名前を呼ばれて前川に再び視線を移すと、ケータイはもう閉じて、何処か真剣な目をしている前川がいた。






前川の目は俺を見てはいない。
真っ直ぐ、教室の真ん前にある深緑の黒板を見つめている。


「…変なこと、訊いていいかな」






いきなり声のトーンが下がり、教室に差し込む光が前川の白い肌に当たる。


そんな前川は、いつも廊下でキャピキャピしている前川ではないようだった。






「変なこと、って?」



さっきケータイを触っていたときより、すこし小さく見える。





俯いている…、とは少し違う。
手元の閉じたケータイを、視線だけで見下ろしながら、小さく深呼吸して。








「……あのさ─、」




前川が口を開いたと同時に、廊下から「俺は帰るー!」と深の声が木霊した。






俺はそんな深を気にせずに、前川を見つめ続けたが、


きっと誰も見たことはないだろう、真剣な表情の前川は、緊張の糸が解けたようにクスッと笑う。




「…やっぱりいいや」


そう言って立ち上がる。
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