君にキス。






立ち上がる前川を神妙な目で見ると、




「…また今度ね」
そう言って笑う。
その笑顔が、すこし寂しげで、不安げだったのはどうしてだろう。






「陸ーっ! ただいまー、帰ったぞ!」

片手を上げながら、豪快に教室に入ってくる深。
深をチラ見してから、また前川を見る。






「…じゃっ、あたし帰るね」

唐突にカバンを貪るように掴み取って、そう言った前川の声は、深にも聞こえていたんだろう。


深は
「前川またなー」
と前川に手を振っていた。




走っていく前川の背中を見ながら、すこし心配になる。
あんな前川を見たのは初めてだったし、それに









気になったんだ、すこしだけ。

どうして、前川は逃げるように教室を出て行ったんだろう。
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