君にキス。






木製のイス。
まだ寝起きだからか、欠伸が止まらない。
動きを止めればすぐに襲ってくる睡魔。


必死に目を瞑らぬよう、目を擦った……、時。

ジーンズのポケットに入っていたケータイが振動し始める。




「……前川?」


ケータイのディスプレイには『前川』の二文字。
確かクラス替えした時に勝手に交換させられたんだっけ。




深には、俺の声は届いていない。
ケータイを開いて、通話ボタンを押す。


「はい、……前川?」




隣でケータイをいじっている深には聞こえないように、なるべく小さな声で出る。
すると、

『……国崎くんさあ、もしかして佐藤くんと一緒?』




ケータイを通して初めて聴いた前川の声。
間違いないと確信する。


「そうだけど…」

『まじ? なんで?』

「なんでって、勝手に連れてこられて…」

『勝手に? …国崎くんわかってる?』






少しだけ間が開いた。
その時に、ふと後ろを振り返る。
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