君にキス。
「…どうした?」
静かに、内心緊張しながら、平然を装って訊いてみる。
すると、ぎゅっと力強く握っていた手がするりと抜けて宙をさ迷う。
行き先をなくした細い手は、少しだけ震えて見えた。
「……あのさ、」
なのに、声だけはいつも通り凛とした声で、そのギャップに戸惑う。
「前、訊こうとしてて、訊けなかったこと、……なんだけど」
固唾をのんで見守った。
途切れ途切れに前川の声が耳に届いて、その後、
「……今日の放課後、訊きたいんだけど、…無理かな?」
目はキョロキョロと安定感がなく、縋るように掴むのは制服の裾。
「……わかった」
あの噂について、聞けるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に、コクリと頷いた。