君にキス。
体育館に続く渡り廊下をトボトボと歩く。
『安心』が欲しかった。
あの声が聞きたかった。
……近づく度に、大きくなる綺麗なあの音。
たった数日間、聴かなかっただけなのに、何故かものすごく懐かしく感じる。
重い鉄製の扉を開ければ、
「…こんにちは」
フルートの音を止めて、はにかみながらお辞儀する夏川が、あの日と同じようにいた。
「またいらしてくださったんですね」
体育館に響く高くて透き通る声は、俺に異常な安心感をもたらす。
ふと、笑顔になる自分がそこにいた。
さっきまで前川のことで憂鬱だったのに、すうっと気が軽くなる。
「…本当に毎日、練習なのか?」
体育館の壁にもたれ掛かり、夏川にそう問いかけると、彼女はいつものように笑顔で「はい」、と言った。
その声を俺は聴きたかったんだ。