君にキス。
「バスケ、ですか」
楽器ケースを大事に手に持ちながら、軽くそれを撫でる。
平仮名で書かれた名前を、指で優しくなぞった。
「…私の弟も、バスケ、やってたんですよ」
いつものように優しい笑みを浮かべる夏川だったけど、微笑んだ後に
今はやってるか、わからないですけど。
と小さく付け足した。
その言葉に、ん? と首を傾ける。
自分の弟なのに、やってるかわからないって言うのに、違和感があったんだ。
「…わからない、って…」
「親が離婚していて、今は一緒に暮らしていません」
──わざと、明るく振る舞う。
強がる。
「そう、なのか?」
「……はい、四年前くらいからです。…でも、元気そうなんで」
夏川の話からわかったこと、それは、四年前に離れた弟がいること。
今夏川は、父親と二人暮らしということ。
いつも優しく微笑む夏川の裏に、そんな事実があったなんて、知っているのは俺だけ、……らしい。