君にキス。






あの噂が本当なんだと、確信したとき、もう遅かった。


「…いない、んじゃないか?」






曖昧な答えは、前川を不安にさせたに違いない。
いる、と言ったら嘘になるし、いない、と言っても嘘になる。


だって俺は、深のそういうこと、知らないから。




恋愛話とかもしたことなんかないし、「恋をしろ」とかしか言われたことなんてない。




「……そっか」


一気に曇ってしまった前川の表情を、見ることが出来なかった。






──早く気づけば。






『なあ国崎、』

『ん?』

『前川が佐藤のこと、好きだって噂、知らねえ?』

『……は?』










……深はあの通り女が大好きで。
そんな深のことを、なんで前川なんかが。
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