君にキス。






「じゃっ、また明日ね」


手を振りながら教室を出て行った前川に、小さく手を振り返して、前川の姿がなくなった後、すぐにポケットを探る。






「もしもし深? お前何やってん…」

「聞け陸! すげーぞ!」




何やってんだ? と訊くつもりだったのに、ケータイ越しでもわかる深の馬鹿でかい声に遮られる。






──すげーぞ、とは?
嫌な予感がその時だけよぎった。
いつもなら、深のことだから、と考えるのに。



「……何だよ」

「それがさあ!」








それを、聞かなければよかったと、俺は後悔する。




「………え…?」






急いで周りを見渡したが、そこに前川はいるわけもなく。
──変な汗が、背中を伝った。
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