駄菓子屋松金 ─マツガネ─
セイジが帰っていった後、まるで図っていたかのように麗雨が歩いてきた。
常磐はそれを見て、マジで計算か、と思いながらも声を掛ける。
「んだよ、白昼堂々とサボりか?気楽なもんだな」
「桜大根一つ」
「……話聞いてる?」
見当違いの言葉が返ってきたので、常磐は苦笑した。頭が弱いとは聞いていたが、彼女には日本語が通じないらしい。
「お前、勤務中だろ。駄菓子なんて買ってる場合か?」
「巡回の休憩だべ。あー、こわいこわい」
「無表情で疲れたなんて言われても、まるで説得力無いんだけど」
棒読み且つ無表情で返される言葉。店の前のベンチに腰掛けた彼女は、上目遣いで常磐を見上げる。見た目は可愛いのにな、とか思ってしまった。
「愛護が暇なんは、国が平和な証拠じゃ。喜べや、パンピー代表」
「その言い方ムカツクわ〜。庶民代表だから」
「なんぼも変わらんべや」
ごちそーさん、そう言いながら、麗雨は腰を上げた。そして、怠そうに肩の関節を回す。オヤジ臭い。
「さーて、行くかね」
「仕事しろよ」
常磐の苦笑混じりの言葉に、麗雨は片手を上げて返した。
常磐は、背だけがやたら高く、ひょろりとした華奢な背中が遠ざかっていくのを見てから、一人呟いた。
「本日、快晴」
庶民代表は、今日も店先で町を見守る。
×国を護る者× 完