駄菓子屋松金 ─マツガネ─



潮田の言葉に、その場に居た人々の声が重なる。

尚輝のために作ったプリンが食べられていたのと、お偉いさんに自分達が作ったお粗末なそれを食べさせてしまったことに、どうしようもない不安が募る。

彼はただでさえ機嫌が悪いのに、今の話を聞いて殺気すら漂わせている。


「…なんか…マズったか?」

「だいぶな」


潮田が困ったように頭を掻くと、常磐が平然と鈴カステラを食べながら言った。

尚輝は室内にもかかわらず剣を抜き、呑気に頭を掻いている潮田にその切っ先を向けた。


「潮田ァ…今日から俺が統帥だよ。俺がお前を椅子から引き摺り下ろす」

「えっ? ちょ、尚輝、落ち着けって。プリンがどうかしたのかよ?」

「這いつくばらせてやるよ」

「待て待て、話せば判るって。俺一応愛護のトップだぞ!? プリンの一つや二つ…」


本気の尚輝に対し、冷や汗を流しながら潮田は後退する。

そう、彼は愛国護民隊の全隊員を統べる統帥という立場に就いている。

寛大な心を持ち、気取らない性格から部下たちからの信頼も厚く、愛護の母親的な存在が、彼・潮田勇一『ウシオタ ユウイチ』なのだ。

それが今、副隊長の男にその命を奪われようとしている。

かなりおもしろい光景である。






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