【番外編】苺みるくの秘密
「春くん、追いかけなくてよかったの……?」
玄関に戻ると君は小さく佇んでオレを見つめる。
朱里を傷つけてどん底に突き落とした分際で、ユリを抱きしめた。
「……春くん?」
幼なじみの君を抱きしめたのは初めてだった。
黙りこむオレを君は包みこんでくれたね。
それなのに何も言えなかった。
「ねぇ春くん。わたしは春くんが大好きだったのよ。知ってた?」
君の肩に顔を埋めるオレに君は好き通るような声で言ったよね。
子供の頃と変わらない君の優しい声。
君はいつだって逃げなかった。
ほんとはこんな情けない姿を君にだけは見られたくなかった。
君の瞳に映るオレはいつだって強くありたかったんだ。
「だからね……」
君はゆっくりオレを引き離す。