ボーダーライン

「良平、相変わらず優しいね」

 何を勘違いしたのか真紀はそう言って嬉しそうに笑った。

 そんな顔をされると思っていなかった俺は、照れ臭くなって何も言えなかった。

 帰宅し、買った茣蓙をベッド横のフローリングに敷くと、懐かしいい草の匂いがした。

「なんか落ち着くねぇ」

 真紀は早くも茣蓙の上に寝転がり、香りや感触を楽しんでいる。

 俺は自分のベッドに寝転がった。

 ここからでも十分香りを楽しめる。

 暫く寝転がっていると、突然真紀がムクっと起き上がった。

 ふわっと風を感じたと思ったら彼女のシャンプーの香りが鼻を掠める。

 その距離感に、ドキッとした。

「どうした?」

 大きいヴィトンのボストンバッグをガサゴソと探りだす。

「職探ししないと」

 取り出したのは求人情報誌。

 ここに来る前にどこからか持ってきたらしい。

「一ヶ月で敷金と礼金なんて貯まるのかよ」

「大丈夫」

 い草の先にあるテーブルにそれを広げると、初めから決めていたようにとあるページを開いた。

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