ボーダーライン
「本当は専属の美容師の人とかにやってもらえるんだけど、毎回お金取られるから自分でやってるの」
言いながら道具を片付けしている。
俺は何だか別の世界にいるような気がして、黙ってそれを眺めていた。
その頭が完成する頃には開始から既に四十五分が経過していた。
その後も化粧を直すのに十五分くらいかけて、やっと準備が完了したらしい。
何食わぬ顔で作業を続けていたが、俺には壮絶な戦いに見えた。
女って大変なんだな。
彼女も姉妹もいない俺にとっては、母とは全く違うその手法にただ驚くだけだった。
「じゃ、行ってくるね」
「おう」
ヒールをコツコツ鳴らしながら出かけていった真紀。
ドアを閉めて部屋に戻ると女の匂いがした。
いなくなった真紀の代わりに目に入ったのは、ヴィトンの大きなボストンバッグ。
そのバッグの存在に俺は小さく興奮した。
女と生活する。
そう実感してきたのだ。
ていうか、このバッグを売ればいくらか敷金の足しになるんじゃないか?