ボーダーライン

 そして最後に俺の名前を打ち込む。

「良平の名前見たら、何て思うかな?」

「え?」

「もう次の男が出来たって勘違いして、悔しいとか思うかな?」

 痛々しい気持ちが言葉から伝わってきた。

 真紀とその元彼は一緒に生活していながら、なぜ別れたのだろうか。

「あいつ、普通だったなー。いつもの声のトーンで、荷物まとまったけど、どこに送ればいいの? だって」

 俺は何も言えず、黙る。

「一年以上一緒に住んでたのに。あたし、もっとこいつの生活に溶け込んでると思ってた」

 そのまま膝に顔を乗せ、一つため息を漏らす。

 そして右手の親指で送信ボタンを押した。

<送信完了>

 その表示を見届けて真紀は携帯を閉じた。

「じゃ、髪乾かしてくる」

 立ち上がり脱衣所に設置されている洗面台へ向かう。

 数秒後、ドライヤーの音が響き始めた。

< 25 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop