ボーダーライン
店長が見たというのはおそらく真紀だ。
「嘘つけよ。なかなかカワイイ子だったじゃねーか」
「だから違いますって」
説明しようにも本当のことを話せばややこしくなる。
「ただの高校の同級生ですから」
これだけを告げると、店長はつまらなそうに俺から離れて行った。
エプロンとバンダナを巻き、タイムカードを押す。
ホールに出ると俺が密かに思いを寄せている女の子、吉田さんがいた。
テーブルを拭いている彼女の背中に声をかける。
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様でーす」
今日も笑顔で「お疲れ様です」。
普段はこれ以上あまり話さないが、俺はこの笑顔のためだけに時間より少しだけ早く店に入る。
吉田さんも俺と同じ大学三年生。
残念ながら彼氏がいるらしい。
それでも思い続けて約一年。
人の女に手は出さない。
俺のポリシーがまた彼女のいない歴を伸ばした。