ボーダーライン

 店長が見たというのはおそらく真紀だ。

「嘘つけよ。なかなかカワイイ子だったじゃねーか」

「だから違いますって」

 説明しようにも本当のことを話せばややこしくなる。

「ただの高校の同級生ですから」

 これだけを告げると、店長はつまらなそうに俺から離れて行った。

 エプロンとバンダナを巻き、タイムカードを押す。

 ホールに出ると俺が密かに思いを寄せている女の子、吉田さんがいた。

 テーブルを拭いている彼女の背中に声をかける。

「お疲れ様です」

「あ、お疲れ様でーす」

 今日も笑顔で「お疲れ様です」。

 普段はこれ以上あまり話さないが、俺はこの笑顔のためだけに時間より少しだけ早く店に入る。

 吉田さんも俺と同じ大学三年生。

 残念ながら彼氏がいるらしい。

 それでも思い続けて約一年。

 人の女に手は出さない。

 俺のポリシーがまた彼女のいない歴を伸ばした。

< 28 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop