ボーダーライン
「無理に売る必要ないだろ。仕事も見つかったんだし」
コーヒーをすすりながら言うと、真紀はそっかと言ってタバコの火を消した。
ドトールを出たらもう夕方だった。
行き交う人は更に増えている。
真紀は何とか人をよけながら俺についてくる。
俺は何度も振り返り、真紀を確認して歩かなければならない。
何度目かに振り返った時、俺の目に映ったのは真紀の前に立ちはだかるギャル男だった。
え? ナンパ?
真紀は無表情だ。
「ね、お願い。ティッシュだけ」
「いい。いらない」
断ってもしつこくついてくる色黒男。
どうやらナンパではなくキャバクラの勧誘らしい。
真紀がやっと俺に追いついたと思ったら、真紀の腕が俺の腕に巻きついた。
それを見た男は真紀を諦め去っていった。
「ごめん。駅までこうしてて」
腕を絡ませたまま真紀の歩幅に合わせて歩く。
人にぶつかりそうになったら自然に真紀をかばった。
彼氏になったような気分になって、ちょっと恥ずかしい。