ボーダーライン

「無理に売る必要ないだろ。仕事も見つかったんだし」

 コーヒーをすすりながら言うと、真紀はそっかと言ってタバコの火を消した。

 ドトールを出たらもう夕方だった。

 行き交う人は更に増えている。

 真紀は何とか人をよけながら俺についてくる。

 俺は何度も振り返り、真紀を確認して歩かなければならない。

 何度目かに振り返った時、俺の目に映ったのは真紀の前に立ちはだかるギャル男だった。

 え? ナンパ?

 真紀は無表情だ。

「ね、お願い。ティッシュだけ」

「いい。いらない」

 断ってもしつこくついてくる色黒男。

 どうやらナンパではなくキャバクラの勧誘らしい。

 真紀がやっと俺に追いついたと思ったら、真紀の腕が俺の腕に巻きついた。

 それを見た男は真紀を諦め去っていった。

「ごめん。駅までこうしてて」

 腕を絡ませたまま真紀の歩幅に合わせて歩く。

 人にぶつかりそうになったら自然に真紀をかばった。

 彼氏になったような気分になって、ちょっと恥ずかしい。

< 37 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop