ボーダーライン
十五分後、風呂のドアが開く音が聞こえた。
ドライヤーの音が聞こえ始めたところで、先日真紀が買ったブドウ型のオイルランプの蓋を外し、ライターで火をつけた。
炎がゆらゆらと揺れている。
部屋の照明を落とすと、部屋はランプを中心にぼんやりと照らされた。
ガチャ
真紀がバスタオル一枚で部屋に入ってきた。
部屋が暗いのに一瞬驚いたようだったが、ランプのあるテーブルの前、つまりは茣蓙の上に腰を下ろす。
俺との距離は、この時点で約五十センチだった。
何も映していないテレビが、ランプの光と俺たちを反射している。
「癒されるな、このランプ」
「うん」
ぼーっと眺める。
何も語らず、静かに揺れる炎。
俺が真紀へ視線を移すと、それを察知して真紀もこちらを向いた。
虚ろだった顔はみるみる眉間にしわが寄ってゆき、眉が下がり、目には涙が溜まっていった。
ポロリと一滴溢れると、目から顎にかけて道ができる。
逸らされた視線。
手で何度も目を拭い、その道を壊していく。