ボーダーライン

 俺は黙って箱のティッシュを差し出した。

 真紀はそれを二枚取り、一枚ずつ両目へ当てる。

 グスッとたまに鼻をすする音がした。

 暫くそうして、少し重くなったそれをポイっとゴミ箱へ放り投げた。

 ナイスシュート。

「何があったの?」

「え?」

「いや、言いたくなかったらいいんだけどさ」

 テレビ越しに真紀の様子を伺う。

 二人が寄りかかるベッドがギシッと小さく音を立てた。

 それを合図に真紀は小さな声で語りだした。



 あたしね、良くしてもらってたお客さんがいるの。

 三十歳くらいのサラリーマンなんだけど。

 店では普通に会社の愚痴とか世間話しか話さない人でさ。

 一年以上も前のお客さんだったんだけど、久々にメールしたら今の店にも何回か来てくれて。

 今日、そのお客さんとアフターしたの。

 そしたらね、帰り際に、

「そろそろいいだろ」

 って。

 意味、わかるよね。

 無理にキスされて、ホテルに連れこまれそうになった。

 ダッシュで逃げて、タクシーに飛び乗って、何とか帰ってきたわけだけど。

 それでも追われているような気がして、怖くって。



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