ボーダーライン

 頬杖をついて笑う吉田さん。

 半分ほど減ったカシス。

 まだ下げられていない空いたグラス。

 器に三個残っている軟骨のから揚げ。

 最後の一切れだけ残っている刺身。

 俺が見ているこの光景は、一体何だろう。

 目の前にいるのは俺の好きな女だというのに。

 みすみす男の話なんて聞きについてきて。

 話を合わせ、反論もせず、ただ受け入れる。

 吉田さんの話を聞いているだけで、一時間以上ここに座っていた。

「迫戸君はさ、どうして彼女作らないの?」

 無邪気な笑顔が痛い。

 あなたに彼氏がいたからです。

「作らないんじゃなくて、出来ないんだよ」

 苦笑いして言うと、吉田さんは更に笑った。

「迫戸くんは絶対作ろうとしてないよー」

「そんなことないって。なかなか両思いになれなくてさ」

「両思いなんて、もう無意味だよ。あたしはね、超ー好きっていう状態から付き合ってどんどん嫌なところが見えていくよりも、何となく好きかもってくらいからだんだん好きになっていく方が良いと思うんだ」

 ジェスチャー付きで力説している。

 別れた彼氏とは「超ー好き」な状態から始まったらしい。

 俺はまた小一時間、相槌を打ちながら聞いた。



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