ボーダーライン
故郷より懐かしさを込めて
俺が故郷に帰るまでの約十日間。
真紀は着実に引越しの準備を進めているようだった。
朝帰ってきた日も昼過ぎには出かけていくし、夜は書類もよく眺めていた。
ハンドバッグには印鑑を常備。
家電も決めた。
どこかはまだ聞いていないが、部屋も無事に決まったらしい。
そして、いよいよ九月十日。
朝帰ってきた真紀は、寝ずに派手な頭と化粧のまま、東京駅まで見送りに来てくれた。
「気をつけてね。みんなによろしく」
「おう。お前もたまには帰るんだろ?」
「うん、冬には帰るつもりだよ」
「そうか。じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃい」
余裕を持って新幹線に乗り込む。
ホームとは反対側の座席だったから、座ると真紀が遠くに見えた。
真紀からはきっと俺の姿なんて見えない。
しかし真紀は新幹線が発車するまでホームにいた。
いってらっしゃい、か。
俺が東京へ戻る頃には真紀はあの部屋にいないんだよな。
いってらっしゃいって言うのが、きっと癖になってるんだ。
「ただいま」
と言うことはないだろうし、
「おかえり」
と言ってもらうこともない。