三日月の雫
・奈落・
あのキスの一件があった後も、結局僕は、柚羽に会いたくて、何度も部屋を訪ねた。
柚羽はいつも、あのキスが幻であったかのように、平然とした笑顔で僕を迎え入れた。
かんなの方はといえば。
啓介さんが迎えにくることもなくなり、夜になると素直に帰って行くようになった。
未練が残るような表情なんてなくて、明るい顔で「じゃ、また明日ね!」と帰って行く。
そんな様子を見て、啓介さんは「そろそろ話そうか」と、僕に相談してきた。
けれど、突然のかんなの変わりように、何かが引っかかっていて、僕は首を縦に振ることができなかった。
「……永ちゃん、今度、みんなで飲み会しない?」
「あー、たまにはいいかもね」
僕の家に来る前にコンビニに寄って来たというかんなが、買ってきた雑誌をパラパラめくりながら話す。