三日月の雫
「……時計、目の前にあるだろう?」
すぐ目の前の棚。
かんなのちょうど目線の先に、大きな置時計がある。
「あ、あぁ、気付かなかった。……あたし、用事を思い出したから帰るね」
「えっ?」
「じゃあね」
今までにない、かんなの態度。
僕に会うために、ここに来たんじゃないのか?
呆気にとられている僕を残して、かんなは逃げるようにして家を出て行った。
――なんだ、あいつ……。
かんなの行動が理解できなくて、僕は溜息をつく。
ベッドに転がり、部屋の中をただ、眺める。