三日月の雫
・引退・
かんなとの、これまで通りの毎日。
僕は高校を卒業して、建設会社に就職した。
昼間は会社員、そして夜はやっぱり暴走族の総長だった。
何ひとつ変わっていなかった。
暴行事件で啓介さんは少年院行きになった。
僕は啓介さんの帰りを待っていた。
『お兄ちゃんがね、他にやりたいことがあるんだったら、総長を誰かに譲って引退してもいいぞって』
かんなは面会のたびに、僕の近況を啓介さんに知らせていた。
真っ当な職を得た僕の将来を案じたのか、啓介さんはかんなを通してそう伝えた。
もちろん、拒否した。
いつも僕を助けてくれた人。
総長として、その人の帰りを待つことが僕の大切な役目だと思っていたから。