三日月の雫
「人の男に手ぇ出すのが悪いのよ!あの女のアパートのポストにカミソリ入れてやったわよ!バイト先に行ってバカみたいなクレームもつけてきたわよ!」
「かん……っ」
もしも。
僕の浅はかな行動で啓介さんを年少送りにしたという過去がなかったら。
かんなが僕に執着してリストカットをするような女じゃなかったら。
僕は怒りに任せて、かんなを殴っていただろう。
女に手を上げるなんて最低なことだと思う。
でも、僕に隠れて柚羽にそんなことをしていたのかと思うと、無性に腹が立った。
――僕は、震える拳を懸命に抑えた。
「もう会わないで!あの女のところに行ったら許さないから!」
「ちょっと待てって!」
一方的にそう言うと、かんなは制止する僕の手を振り払い、飛び込むようにして車に乗った。
そして、僕の方を見ることなく、また猛スピードで車を走らせて行った。