三日月の雫


僕をどん底に叩き落とした出来事は、それだけでは終わらなかった。

翌日、もうすぐ仕事が終わるという頃に啓介さんから電話があった。

用件も言わず、ただ、仕事が終わったら真っ直ぐ家に来いとのことだった。



仕事を終えて帰る頃にはすっかり夜になっていた。

靄のかかった夜空に浮かぶ小さな三日月。

霞んで見えるその三日月は、まるで涙を溜めているように見えた。


もうすぐ春が来ようとしているのに、そんな気配すら感じられない。


……春が来たら、なにか変わるのかな。


寒い夜空の下。

僕は白い息を吐きながら車に乗り込んだ。



啓介さんの家に着くと、僕はそのまま啓介さんの部屋へと通された。

かんなもいるはずなのに、声ひとつしなかった。



「……かんなは…」



部屋に入って腰を下ろすなり、僕は啓介さんに聞く。

< 157 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop