三日月の雫
手に触れるあらゆる物に八つ当たりしたのだろう。

洋服は散乱し、引き裂かれた雑誌がいくつも散らばっている。

倒れた本棚。

粉々に砕けた植木鉢と散乱する土の間から、観葉植物の葉が、自分はここにいるともがいている様に見えた。



ベッドに横たわるかんなの両腕には真っ白な包帯が巻かれていて、うっすらと赤い血がにじみ出ていた。

啓介さんは何も言わなかったけれど、かんなはあの後、自分の腕を切りつけたんだ。



――こんなにも、傷つけてしまった。


ただ、1人の人を好きになっただけなのに。

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