三日月の雫
かんなから唯一解放される場所は会社だけだった。

それを知る啓介さんや遼太郎が、僕の休憩時間を見計らって尋ねてきた。



「任せとけってデカイ口叩いたけど、こんなことになるなんてな」



冷たい空気の中、暖かい日差しが僕たちを優しく包み込む中。

啓介さんの顔に絶望の色が浮かぶ。

遼太郎は黙ったままうつむいて、タバコを吸っている。



「…………」



僕にはもう、悩むことも、考えることもできる力がなかった。

絶望という感情を通り越して、ただ笑うことしかできなかった。



「柚羽って子には、会えたのか?」

「……いえ、まだ…」



もう柚羽とは会わない。

でもせめて最後に一度だけという僕の願いはまだ叶っていなかった。

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