三日月の雫
遼太郎の作戦――。

その日、僕は残業となった。

でも後輩が「いつも残業ばかりで大変でしょう?」と僕を気遣ってくれ、代わりに残業を引き受けてくれた。


念のためと、僕はそいつに、もし会社にかんなが訪ねてきたり、電話があったりしたらうまく言っておいてくれと頼んだ。



「きっと、うまくいくから」



僕を家に送り届けると、遼太郎は柚羽を迎えに行った。

遼太郎は僕が書いた柚羽のアパートまでの地図を何度もチェックし、車に乗り込む。



――きっと、うまくいく。


何度も、何度も自分にそう言い聞かせた。

そして、もう二度と会うことのない柚羽の笑顔を頭の中にしっかりと記憶しておこうと……。



柚羽が来るからと、キレイに片付けられた遼太郎の部屋。

まるで別世界だった。

だらしない遼太郎の部屋は、いつも足の踏み場がない。

でも今日は、きちんと部屋の床が見えている。

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