三日月の雫
「いらっしゃいませ」
店の中に入ると、厚化粧の店員が僕に頭を下げる。
「結婚指輪ください」
ショーケースに並べられたキラキラ光る指輪には目もくれず、厚化粧の店員にそう告げる。
店員はさらににっこりと笑い、「おめでとうございます」と祝福した。
いろんなカタログや、ショーケースに並べられている指輪を店員と一緒に見て回り、僕はプラチナのとてもシンプルな指輪を選んだ。
指輪が決まると、今度は奥にあるテーブル席に案内される。
「指輪の内側にはどのように刻印されますか?」
刻印のデザイン案として、またカタログを見せられる。
僕はカタログには目を通さず、言った。
「もう決まっています」
「あ、そうですか。でしたら、ここに書いて頂いてよろしいですか?」